水素とゴムの話

  • 2020年06月03日

    水素とゴムの話(4)-水素ステーションの使用環境-

    水素を燃料として走る車は燃料電池自動車と呼ばれ、FCV(Fuel Cell Vehicle)とも呼ばれます。

     

    その燃料電池自動車(FCV)に水素を供給するのが水素ステーション(Hydrogen Refueling Station)です。

     

     

     

     

    水素ステーションの特異な点はその使用条件にあります。

     

     

     

    水素ステーションを構成する各水素機器を通る水素の圧力・温度条件は様々で、場所によってはOリング・ゴムパッキンにとって非常に過酷な環境となっています。

     

     

     

    過酷な環境とは次の4点が挙げられます。

     

     

    ①流体が水素である

    ②高圧である

    ③加減圧サイクルがある

    ④温度領域が過酷である

     

     

     

    デバイス使用条件

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    ・水素製造装置

     

     

    温度・圧力は、常温・低圧です。

     

     

    水素製造装置

     

     

     

     

     

     

     

     

    (大阪ガス様HPより抜粋)

     

     

     

     

    ・水素圧縮機

     

     

    高温・高圧です。

     

    徐々に圧力が上げられることで、吐出口に近づくほど温度が上がります。

    圧力は82MPa、設計温度は最大180℃といわれています。

    また、稼働時には圧力がかかり、停止時には脱圧が行われ、加減圧サイクルがあります。

     

     

     

    水素圧縮機

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    (株式会社加地テック様HPより抜粋)

     

     

     

     

    ・蓄圧器

     

     

    温度は常温で、圧力は高圧ですがさほど大きな圧力サイクルはないといわれています。

     

     

    水素タンク

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    (サムテック株式会社様HPより抜粋)

     

     

     

     

    ・水素ディスペンサー

     

     

    低温・高圧です。

     

     

    プレクーラーが内蔵されているので、温度は-40℃まで下がります(低温)。

     

    また、90MPaの水素がFCVに充填され、それが終わると脱圧があり、0MPa(大気圧)まで下がります。

     

     

    特に緊急離脱カップリングは、充填時に-40℃近い水素が3分ほど流れ続け、充填が終わると一気に脱圧が行われるため、Oリングにとっては大変過酷な環境となっています。

     

     

     

     

    水素ディスペンサー

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    (トキコシステムソリューションズ株式会社様 HPより抜粋)

     

     

     

     

    このようにそれぞれのデバイスで使用条件が異なるので、水素をシールするゴムパッキンの材料も配慮が必要になります。

     

     

     

     

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、日本の多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

     

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年06月01日

    水素とゴムの話(3)-水素ステーションの概要-

    水素を燃料として走る車は燃料電池自動車と呼ばれ、FCV(Fuel Cell Vehicle)とも呼ばれます。

     

    その燃料電池自動車(FCV)に水素を供給するのが水素ステーション(Hydrogen Refueling Station)です。

     

     

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、日本の多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

     

    今回は水素ステーションについての解説をさせていただきます。

     

     

     

     

     

     

    ○水素ステーションの構成

     

     

     

    HRS_model

     

     

    水素ステーションは主に水素製造装置・水素圧縮機・蓄圧器・ディスペンサーというデバイスで構成されています。

     

     

    水素をどうやって持ってくるのかという点で、「オンサイト型」と「オフサイト型」に分かれます。

     

     

     

     

     

    水素ステーション概要図

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    「オンサイト型」は都市ガスやLPGを改質して(水素ステーション内で)水素を取り出します。

     

     

     「オフサイト型」は水素ステーションの外で製造した水素をトレーラーなどで運んできます。

     

     

     

    また、車載コンテナに充填に必要な設備をすべて搭載している「移動式水素ステーション」というものもあります。

     

     

     

     

    〇実際の水素ステーション

     

    尼崎水素ステーション

     

     

     

     

     

     

     

     

    こちらは、岩谷産業さんの運営する「水素ステーション尼崎(兵庫)」です。2014年に開所した日本初の商用水素ステーション(オフサイト型)です。

     

     

    この水素ステーションは水素タンクに貯蔵した液化水素を気化させて、水素を供給しています。

     

     

    左に見えるのが水素ディスペンサー。

    水素圧縮機や蓄圧器はその裏にあります。

     

     

     

     

    ○移動式水素ステーション

     

     

    移動式水素ステーションは、車載コンテナに必要な設備をすべて搭載しています。

     

     

    必要最小限の設備なのでコストを抑えられることと、移動できるので広範囲エリアをカバーできるのが特徴です。

     

     

     

     

    移動式概要図

     

     

     

     

     

    (HySUTのHPより抜粋)

    http://hysut.or.jp/information/pdf/FC6.pdf

     

     

     

     

     

     

    移動式水素ステーション

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    こちらは大阪ガスさんが運営している「上鳥羽水素ステーション(京都)」です。

    専用のトラックが常駐していて、そこから水素充填ができます。

     

     

    この移動式水素ステーションの水素は30㎞程離れた「北大阪水素ステーション」で作られた水素をカードルで運んできます。

     

     

     

     

    2020年5月現在、商用水素ステーションは129カ所が稼働しており、うち39カ所が移動式(複数にまたがる場合も含める)です。

     

    詳しい情報はこちらからご覧ください(FCCJ(燃料電池実用化推進協議会)様のHPに移動します)。

     

     

     

     

    次回は水素ステーションの使用環境の話をします。

     

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年05月27日

    水素とゴムの話(2)-ブリスタ破壊対策とはみ出し破壊対策-

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、日本の多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

     

     

    高圧水素環境下でゴムパッキンを使った場合によく課題になる現象が、

    「ブリスタ破壊」と「はみ出し破壊」です。

     

     

     

     

    今回はその対策の話をします。

     

     

     

     

     

    ○円柱試験片の水素曝露によるブリスタ破壊挙動

     

     

     

    17071101

     

     

     

     

     

     

     

     

    これは試験用に配合した3種類のφ29×t12.5のゴム試験片を、

    100MPa/30℃で65時間水素曝露したあとの側面の様子です。

     

     

     

     

    上段は硫黄加硫EPDMの充填剤なしの配合の結果です(左⇒右に順番に見てください)。

    減圧後1時間で気泡発生とともに試験片の破壊が発生しているのがわかります。

    その後4時間⇒8時間⇒11時間と時間が経つにつれ、破壊が消えていくのが観察されます。

    これは、ゴム試験片内部に侵入した水素が、数時間のうちに抜けていっているためと推察されます。

     

     

     

     

    次に中段は硫黄加硫EPDMのカーボンブラック25phrの配合の結果です。

    気泡の発生から破壊発生に至るまで数時間を要している様子がわかります。

    ゴム試験片の中に侵入した水素が内部に残り、時間とともに中からじわじわと現れてきているためではないかと思われます。

     

     

     

     

    最後に下段は硫黄加硫EPDMのシリカ(白色充填剤)の配合の結果です。

    これは気泡・破壊とも発生しなかったことがわかります。

     

     

     

     

    これらのことから「耐ブリスタ性向上にはシリカを配合したゴム材料が有効である」

    ということがわかります。

     

     

     

     

    Ref: 村上敬宜,松岡三郎,近藤良之,西村伸,

    「水素脆化メカニズムと水素聞き強度設計の考え方」

    第14章,養賢堂(東京),(2012)

     

     

     

     

     

     

    ○Oリングの水素曝露による膨潤挙動

     

     

     

    17071102

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    これは高圧水素曝露直後のOリングの体積変化率の結果です。

     

     

    【供試体】 

     ・材質:EPDM   

     ・硬度:75  

     ・曝露時間:18時間

     

     

    【試験条件】

     ・圧力:70MPa

     ・温度:100℃

     

     

     

    ゴム試験片の圧縮率・充填率を4種類パターンを変えて高圧水素に暴露しています。

    補強材としてカーボンブラックとシリカを配合したゴム試験片を比較していますが、

    いずれの圧縮率・充填率においてもシリカ配合に比べ、

    カーボンブラック配合の方が体積変化を抑えられているのがわかります。

     

     

     

     

    このことから、「はみ出し破壊の原因となる体積膨潤には、カーボンブラックを配合

    したゴム材料が有効である」ということがわかります。

     

     

     

     

    Ref: S Nishimura et al., International Symposium of HYDROGENIUS,

    2011.2.2, Fukuoka, Japan

     

     

     

     

     

    ○「ブリスタ破壊」対策と「はみ出し破壊」対策

     

     

     

    「ブリスタ破壊」対策にはシリカ配合、「はみ出し破壊」対策には

    カーボンブラック配合が有効ということから、私たちはこれら両方を

    併用することが望ましい、と想定し配合に反映させています。

     

     

     

     

    次回は水素ステーションの話をします。

     

     

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年05月25日

    水素とゴムの話(1)-ブリスタ破壊とはみ出し破壊-

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

     

    高圧水素環境下でゴムパッキンを使った場合によく言われるのが、

    「ブリスタ破壊」と「はみ出し破壊」です。

     

     

     

     

    ○ブリスタ破壊 

    01水素入り込む図

     

     

     

     

      

     

     

    高圧水素ガスに曝されたゴムパッキンには、

    どんどん水素が貯めこまれていきます。

     

      02き裂発生する図

     

     

     

     

     

     

     

    その後脱圧すると水素は外部に出ようとします。
    その時内部に気泡が発生し、き裂になることがあります。

    き裂が進展するとゴムパッキンの破壊に至ります。
    これがブリスタ破壊現象です。

     

     

     

     

     

    Exif_JPEG_PICTURE 04ブリスタ拡大図 

     

     

     

     

     

     

     

    上の写真は試験用の配合で水素曝露したEPDMのOリングです。
    拡大写真をご覧いただくと、表面が内側から裂けている様子がわかるかと思います。

     

     

     

     

     

    05ブリスタ断面図

     

     

     

     

     

      

     

     

    この写真は別の試験片の断面です。
    表面まで亀裂が達しておらず、内部のみ裂けている部分があるのがわかるかと思います(赤丸部)。

     

     

     

    このように、外見だけではブリスタ破壊が起きているかどうか判別できないときがあります。
    よって、Oリングは外見だけでなく断面の観察も行い、ブリスタ破壊が起きていないか確認をします。

     

     

     

     

     

    ○はみ出し破壊

     

     

     

    06はみ出し前図

     

     

      

      

     

    これはOリングのシール構造の断面図です。

     

    高圧水素ガスに曝されたOリングには、どんどん水素が貯めこまれていきます。

      

      

     

     

     07はみ出し破壊図

     

      

       

      

     

     

     

      

    その後Oリングは水素により膨潤していきます。

    水素の侵入により体積は膨張し、溝からはみ出すことになります。

    はみ出たOリングはいずれ破壊に至ります。これが「はみ出し破壊現象」です。

     

     

     

     

     Exif_JPEG_PICTURE 09はみ出し破壊拡大図

     

     

     

         

     

     

     

     

    写真は試験用の配合で水素曝露したEPDMのOリングです。
    拡大写真のOリングのパーティングラインの上あたりが
    ひげのようにはみ出ているのがわかると思います。

     

     

    私たちが実施している試験は90MPaで行うことが多く、
    水素の浸入に圧力の加減圧による負荷も加味されて複合的に破壊されることが
    一般的です。

     

     

     

    高圧水素でゴムパッキンを使用する場合、
    これらの破壊を極力抑えることが課題となります。

     

     

     

     

     

    次回はこの課題へのアプローチの話をします。

     

     

     

     

    Ref: 村上敬宜,松岡三郎,近藤良之,西村伸,

    「水素脆化メカニズムと水素聞き強度設計の考え方」第14章,養賢堂(東京),(2012)

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年05月20日

    水素曝露試験用ゴム試験片の作成 №4 試験結果 (再掲)

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

    2007年からその研究が始まっているのですが、そのいきさつを書いた記事が見つかりました。私たちが今見ても面白い内容になっていますので(内容が古いところは若干今風にアレンジしています)、再掲します。

     

     

     

    —————(ここから)—————

     

     

    前回まで、問合せ(№1)と見積依頼(№2)、試験片作成(№3)のお話をしました。
    今回は試験結果のお話をします。

     

     

     

     

    解説して下さいました

     

     

    初回納品から数ヶ月後、西村先生のご厚意で来社して試験結果の解説をして下さいました。試験片をお願いするからには内容を話して理解してもらった上で作ってもらった方がいい、という西村先生のお考えからでした。

     

    これは私たちとしても大変ありがたいことでした。

     

    「いったいなんに使われるのか」「納品した試験片はどうなったのか」などやはり気にかかるものです。

     

    また内容をお話しいただくことでゴム屋なりのご提案もできるかもしれません。

     

     

    そういった意味でも詳細を教えていただくことはお互いにプラスであると考えています。

     

     

     

    試験結果

     

     

    さて、解説して下さった試験結果です。

     

    写真に載っているのがブリスタ現象です。

     

    試験片はφ29×t12.6の円筒ブロックで、材料はEPDMのカーボンブラックが入っている配合と入っていない配合です。

     

    そして上段が圧力10MPaの水素ガス中に曝露した後の状態、下段が圧力100MPaの水素ガス中に曝露した後の状態です。

     

    試験片は、高圧水素に曝露されると内部に水素の侵入を受けます。

     

    そのあと急速に大気圧まで減圧すると、写真に示したようにブリスタと呼ばれるゴムの破壊現象が起きます。

     

     

     

     

    bakuro.JPG   

    「10MPa水素ガス中で曝露したエチレンプロピレンゴムの水素侵入特性とブリスタ破壊に及ぼす充てん剤の影響」
    山辺 純一郎、中尾 匡利、藤原 広匡、西村 伸
    日本機械学会論文集 2008年7月号(第74巻第743号)A編 (材料力学、材料など) 971ページ

     

     

     

     

    ブリスタ現象

     

     

    これを見るまでブリスタ現象というものを知りませんでした。

     

    それにゴムがこんな状態になるのも初めて見ました。

     

    私たちが普段目にするのは、油に膨れたり水でぼろぼろになったもので、ここまで破壊された状態は衝撃的でした。

     

    また、カーボンブラックが入っているEPDMと入っていないEPDMで破壊のされ方が違うのにもびっくりしました。

     

     

     

     

    解説を受けて

     

     

    解説をしていただいた感想は、ただただびっくりするばかりでした。

     

    自分たちが納めた試験片がこういったことに使われていることへの驚きと、最先端の話への驚きとで、ただうなずくばかりでした。

     

    と同時に見たことも聞いたこともない話に、ずいぶん引き込まれました。

     

     

     

     

    次の案件

     

     

    九州大学水素利用技術研究センター様の水素曝露用試験片は、その後も続き今も(’09.4当時)お付き合いさせていただいております。

    次々に持ち込まれる「こんなことできませんか」という相談をいつも楽しみにしています。

     

     

    これまでに数十種類の材料、十数種類の形状、実に様々なものを作りました。
    残念ながらまだ公開されていないのでお話しすることはできませんが、いずれまたまとめてお話したいと思います。

     

     

     

     

    計4回にわたってお話ししました水素曝露試験片ゴム試験片はこれでひとまず終わりです。

     

     

    その後、実際の水素ステーション向けのゴム材料を開発することになるのですが、それはまた改めてお話したいと思います。

     

     

     

    最後までご覧いただいて、ありがとうございました。

     

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年05月18日

    水素暴露試験用ゴム試験片の作成 №3 試験片製作(再掲)

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

    2007年からその研究が始まっているのですが、その当時のいきさつを書いた記事が見つかりました。私たちが今見ても面白い内容になっていますので(内容が古いところは若干アレンジしています)、再掲します。

     

     

     

    —————(ここから)—————

     

     

    正式注文がきた

     

     

     

    御見積書を提出して3週間後、正式注文が来ました。

    私たちとしましても注文書をいただかないと動けないので、心の準備はしつつ、今か今かと待っていました。

    私は営業なので、注文書を受け取ると「仕事をもらった!」と実感し、嬉しくなります。

    今回は試験片のボリュームとしては多いので、喜びはひとしおでした。

     

     

     

     

     

    技術部に材料の依頼

     

     

    今回の場合、まず材料の手配を技術部に依頼しました。

     

    材料の配合は西村先生からの指定なので、配合表をそのまま技術部に送りました。

    全部で4種類なのでそれぞれに番号を振り、区別をしました。

     

     

     

     

    製造部に製作の依頼

     

     

    試験片は4種類なので、それぞれに製作依頼を出しました。

    ① 平角150㎜×150㎜×2㎜
    自社の金型があるのでそのまま製作依頼を出しました。

     

    ② ダンベル1号
    2㎜のシートから抜くので①と同じ依頼+ダンベル1号で抜く依頼を出しました。

     

    ③ 短冊2㎜×1㎜×60
    1㎜のシートからカットするので平角150㎜×150㎜×1㎜の製作依頼
    +2㎜×60㎜の加工依頼(こちらは外部に委託)を出しました。

     

    ④ φ29×t12.6
    厚さ20㎜くらいの方形もしくは円形ということでしたので、社内でいつも圧縮永久歪試験に使用するブロック(φ29×t12.6)を流用する取り決めになっていました。
    これも金型があるのでそのまま製作依頼を出しました。

     

     

     

    (左下図はダンベルを抜いている様子。右下図は出来上がった短冊です。) 

     

    dannberu.JPG

     

     

     

     

     いざ製造工程へ 

     

     

    下の写真の順番で製造は行われました(写真は当時のものです)。

     

    koutei 2.JPG

     

     

     

    一安心

     

     

    納品が終わると一安心します。
    今回は初めてのことでもあるので納期は長い目にもらっていました。
    ですので余裕をもって納品することができました。

     

     

     

    勝手が違う

     

     

    とはいうものの、試験片を納めるということは通常の量産品の工程こそ同じでも内容は全く違うものでした。

     

    特に勝手が違ったのは成形工程・検査工程でした。

     

     

    今回の成形品の形状はすべて技術部が物性試験に使用するものばかりでした。

    日頃は技術部で成形し物性試験をするので、製造部には流れてこない形状です。つまり、製造部の工程でそのような形状が流れてくることが初めてだったわけです。

     

    しかも「部品」としてではなく試験をするための「テストピース」なので、完成品のタイプが全く変わってきます。

     

     

     

     

    サンプルを送って確認してもらいました

     

     

    引張試験に用いるダンベルや、短冊についてはシートからの加工であり、JIS規格もあるので、問題はありませんでした。

     

    ところが平角や円柱ブロックについてはどのように使うのか、把握していませんでした。

     

    配合によっては成形工程での材料の伸びが悪く、成形してもどうしても端が欠けたりしました。

     

    そこでサンプルを送って「こんな感じになるんですけど…」とおそるおそる確認を取りました。

    聞いてみると、試験片への加工前の段階の素材としての成形品で、そのままシールするわけではないので、ものによっては多少にカケは構わないし寸法公差もありません、ということでした。

     

    通常量産品の基準で見てみると(形状はシールできるものではありませんが)とても合格にできるようなものではないので、初めのころは戸惑いましたし、現場の検査担当の人は心配そうな顔をしていました。

     

    配合が特殊であることや、最終的な仕上げはお客様(九州大学)で実施すること、比較という観点から成形条件を揃える必要があること、などの理由で試験に影響のない程度で認めていただきました。

     

     

     

     

    その後試験結果は論文で発表されました。

     

    西村先生はわざわざこちらに足を運んで来られて、解説もしていただきました。

     

     

     

     

    そこではじめて「ブリスタ破壊」の試験片を目にしてびっくりすることになります。

     

    そのあたりは次回に。

     

     

     

    (№4に続きます)

     

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年05月14日

    水素暴露試験用ゴム試験片の作成 №2 見積依頼 (再掲)

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

    2007年からその研究が始まっているのですが、その当時のいきさつを書いた記事が見つかりました。私たちが今見ても面白い内容になっていますので(内容が古いところは若干アレンジしています)、再掲します。

     

     

     

    —————(ここから)—————

     

    営業部の斉藤です。

     

    前回は西村先生からのファーストコンタクトの話をしました。
    今回は見積依頼の話をします。

     

     

     

    久しぶりに連絡が来た

     

     

    前回電話を切ってからというもの、「いつになったら連絡がくるかな?」とどきどきしながら待っていましたが、一週間後メールで見積依頼が来ました。

     

     

     

     

    内容は、

    sikennhenn 2.JPGのサムネール画像

     

     

    材料が4種類

    ① NBR(カーボンブラックなし)

    ② NBR(カーボンブラックあり)

    ③ EPDM(カーボンブラックなし)

    ④ EPDM(カーボンブラックあり)

     

     

     

    これら4種類の材料それぞれに試験片を4種類

    ① 平角150㎜×150㎜×2㎜
    ② ダンベル1号
    ③ 短冊2㎜×1㎜×60㎜
    ④ 厚さ20㎜程度の方形もしくは円形

    というものでした。

     

     

     

     

    配合について

     

     

    IMG_8479.JPG

     

    気になるゴム材料の配合内容については、「命」と言ってもいいくらいゴムメーカーの私たちには非常にデリケートな問題です。

     

    私たちはゴム材料の性能を命とするゴム屋ですから、普段量産で使っているゴム材料の配合内容自体を教えるわけにはいきません。

     

    ゴム屋に配合を聞くということは、鰻屋に秘伝のタレを聞くようなもので、「それはノウハウなのでご容赦ください」といわれるのがオチなのです。

     

     

     

    前回のファーストコンタクトの時にある程度このあたりの下打ち合わせはしてありました。

     

    西村先生はその点をよく理解されておられて、「当然公開できないでしょうし、独自の配合を聞くつもりもありません」と配慮していただいたことを覚えています。

     

     

     

     

     

    西村先生からの提案は、ゴムの本に載っているような基本的な配合でいいというものでした。

     

     

     

    それでもこういう依頼に不慣れな私たちは、配合をすべて指定してほしいというお願いをしました。なぜなら私たちが使っているポリマーの種類、カーボンの種類、使う薬品、などすべてがノウハウの固まりだからです。

     

     

     

    結局西村先生の方よりご希望の配合をお伺いして、それに私たちから対応できるものは流用し、できないものは購入する、という形をとりました。

     

     

     

     

    いい関係

     

     

    この案件は大学の研究なので、論文として公開される、ということが前提でした。

    先ほども書いたようにゴム業界には閉鎖的な慣習があり、「ゴムの配合内容はマル秘」というのが一般的です。

    したがって、閉鎖的といわれるゴム業界においてどこまでオープンにしてよいものやら戸惑いました。

     

     

    西村先生はそのあたりを十分考慮されていて、どうしたら私たちが対応しやすいか最初から気遣ってくださいました。この点はとてもありがたかったです。

    ですから私たちもどういう方法が一番いいのか考えることができましたし、気軽にご提案もできました。

     

     

    売り手である私の方から申し上げるのもなんですが、いい関係ができつつあるなと思いました。

     

    問い合わせの対応をしていると日々新しいお客様とお話をしますが、いい仕事というのは内容ではなく、人と人との関係だとつくづく感じます。

     

     

     

     

     

    調整は大変でした

     

     

    このようにトントン拍子で進んだかの如く話していますが、実際の調整は一筋縄ではいかず大変でした。

     

    薬品の種類、カーボンの種類、試験片の形状・・・など。

     

     

    当時の記録を見ると電話とメールが入り乱れていました。

     

    まあ私がこういうことに慣れていなかったのが一番の原因かもしれませんが・・・。

     

    幸い、西村先生がこちらのやりやすいようにしてくださいとおっしゃってくださったので、すんなりと配合を決めることができました。

     

     

     

     

    詳細を聞く

     

    お恥ずかしい話ですが、最初の電話の時にこの試験片の目的を聞いていませんでした。

    応対するのが精いっぱいでそんな余裕もなかったんだと思います。

    御見積りを出すにあたって、「で、なんに使うんですか?」と聞いたくらいです。

     

     

    今では使用環境や目的を尋ねるようにしています。

    もちろん機密事項もあるでしょうからできる範囲でいいのですが、教えていただいた方が私たちからのご提案もできますし、仕事はやりやすくなります。

    実はそこに私たちの特徴があります。

     

     

     

    さて詳細はというと、この試験片を高圧の水素中に入れてどう変化するか見るのだそうです。

    それがいったいどういうものか想像もつかなかったので、その時は「あー、そーですか」と返事するくらいしかできませんでした。

     

     

    結果はゴムが見たこともないような変化を起こすのですが、それは別の回にお話しします。

     

     

    とりあえずは予定通り、御見積りを提出しました。

    3週間後に注文がきて試験片製作に取り掛かることになります。

     

     

     

    そのあたりはまた次回に。

     

     

     

     

    提案型営業

     

    IMG_8903.JPGのサムネール画像

     

    この一連のやり取りから学んだことは、いっしょに考え最適な方法を提案するというスタイル、つまり提案型営業です。

     

    多くのお客様は「ゴムのことはよくわからない」とおっしゃいます。

     

    西村先生も自分の研究室でゴムの設備一式を揃えてやってみようと検討されたということでした。ですがその道のりを考えると、「ゴムの研究」より「ゴムを作る研究」から始めないといけないので断念したそうです。

     

    ゴムの専門家である私たちならではのご提案、お役立ちの方法があるのだなと感じた次第です。

     

     

     

     

    ではまた。

     

    (№3に続きます)

     

     

    カテゴリー:水素とゴムの話
  • 2020年05月12日

    水素暴露試験用ゴム試験片の作成 №1 問合せ (再掲)

    私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。

     

    2007年からその研究が始まっているのですが、その当時のいきさつを書いた記事が見つかりました。私たちが今見ても面白い内容になっていますので、(内容が古いところは若干アレンジしています)再掲します。

     

     

     

     

     

    —————(ここから)—————

     

    営業部の斉藤です。

     

     

    九州大学の水素利用技術研究センター(HYDROGENIUS)ではその名の通り、水素に関する研究をされています。

     

    その中でも高分子材料部門の西村先生の研究室は「高圧水素機器に使用するシールやOリングに適したゴム材料はなにか」というところに焦点を当て、高圧水素がゴムに与える影響を研究されています。

     

    私たちはその研究に使われるゴム試験片(テストピース)を作成し、納めています。

     

     

     

     

    sikennhenn 2.JPG

     

     

     

    私たちがどういう対応をしてご要望にお応えしてきたのか、これまでのいきさつをお話していきたいと思います。

     

     

     

     

     

     

    電話がかかってきた

     

     

    CIMG1714.JPGのサムネール画像

    (写真は2009年当時のもの)

     

     

     

    ある昼下がり、いつものように事務所で仕事をしていると水素利用技術研究センター様からの問合せの電話がかかってきました。

    内容は「カーボンを入れないゴムは作れないか?」というものでした。

     

     

    初めてのお電話にもかかわらず、ずいぶん長く(30分くらい?)お話をさせていただいたと記憶しているのですが、ポイントは次のようなことでした。

     

    ① カーボンを入れた材料と入れない材料を作ってほしい

    ② ベースはNBRとEPDM

    ③ 必要なゴム試験片(テストピース)はシート数十枚

     

     

    ゴムには基本的に補強材としてカーボンを入れますので、パッキンを作っている私たちとしては「カーボンを入れない」材料は作ったことがありませんでした(作ったところでパッキンの材料として使えないので、作る必要もないのです)。

     

     

    まずは社内で技術部に相談と考え、いったん電話を切りました。

     

     

     

     

    作れないことはない

     

     

    社内で技術部に「カーボンを入れない材料」は果たして可能なのか尋ねたところ、「作れないことはない」という回答でした。

     

    この「作れないことはない」というのは作ろうと思えば作れる、ということなのでここは一安心なのですが、次に続くのは「そんなもの作ってどうするのだろう?」という当然と言えば当然の疑問でした。

     

     

     

     

     

    「ゴムの試作やります!」

     

     

     

     

    top.JPGのサムネール画像

     

     

    この問合せがあった時期は、思い返せば懐かしいのですがホームページはまだ社長の手作りで、「ゴムの試作やります!」なんてことをうたっていました。今でこそ弊社のホームページは大きくリニューアルされ、「ゴムの試作」や「ゴムの研究開発支援」に力を入れていることがわかりやすく示されてますが、当時は素人の手作りだったので、今とは比べるべくもない内容でした。

     

    それでもホームページでの情報発信に力を入れ始めていたところなので、問合せはちょこちょこ来ていました。でもわが社としても初めての試みなので「売上にならない」「対応も慣れない」状態で、水面下でやっているような状況でした。

     

    そこへ九州大学という「ビッグネーム」からの問合せなので、こりゃモノにせにゃいかん、と技術部からの疑問は半分聞き流しつつ再び連絡を取りました。

     

     

     

     

    できます!やります!

     

     

    「技術部に確認したところ対応できます」とひとまずは回答。前向きな姿勢をアピールしました。

     

    今でこそ社名や規模で小躍りすることはなくなりましたが、「うちみたいな会社にそんなところから問合せがくるんやー」と考えただけでも緊張したものです。

     

    聞けば、他のゴムメーカーではほとんど話を聞いてくれなかったようで、自社のコンパウンド以外の配合は対応できませんと言われ、結構困っていらっしゃったようです。

     

     

     

     

     

    なんとかなりそう

     

     

     

     

    IMG_8448.JPGのサムネール画像

     

    わが社ではオープンロールというものを使ってゴムを練っています。オープンロールを使ってシート出しすることはもちろんですが、配合を自社でしているので混練りをしてゴム材料を作っています。

    材料は定期的に物性試験をするので試験用のシートも作ります。つまり、ゴム試験片(テストピース)を作る工程自体は日ごろの仕事としてすでに社内にあったのです。

     

     

    あとは配合の問題ですが、これも今までの経験からすると「なんとかなるだろう」というのが技術部の見解でした。

     

     

     

     

     

    値段のつけようがない

     

     

    ご要望の試験片を作ることができそうだとお伝えすると、だいたいのコストを聞かれました。しかし今まで量産品のパッキンを製造して納めていた私たちなので、日ごろの物性試験に使うゴム試験片(テストピース)に値段のつけようもありません。

     

    それでもこれまでの経験から概算価格を出し提示したところ、どうやら適正だったようで詳しい内容はまた後ほどということで、ここでひとまず落ち着きました。

     

     

     

    一週間後ゴム試験片(テストピース)の見積依頼がきてまたてんやわんやするのですが、それは次回に。

     

     

     

     

     

    この依頼をきっかけに私たちはゴム材料の開発支援という仕事を始めます。

    これはお客様の指定された配合で材料を練ります、というものです。100%配合指定される場合もありますし、この薬品を入れて欲しい(ベースは大体でいい)という限定的な依頼もあります。

    さらには加硫条件を振る場合もあります。JIS規格に規定される試験片は当然作ることはできますが、お客様独自で試験をされていてゴム試験片(テストピース)が特殊形状の場合も承ります。

     

     

     

    はじめのうちは何が何だか分からないことだらけでしたが、このお話をいただいてからゴム材料の開発支援ということがわが社の強みであるということに気付きました。

    いろいろとご要望にお応えするうちに、次々と持ち込まれる「こんなゴム試験片(テストピース)がほしい」という相談をいつも楽しみにしています。今では「これほどおもしろい案件はない」と感じております。

     

     

     

     

    (№2に続きます)

    カテゴリー:水素とゴムの話
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