私たちの会社では高圧水素用のOリングを開発しています。今では、多くの水素ステーションで採用され、使用用途が広まりつつあります。
2007年からその研究が始まっているのですが、その当時のいきさつを書いた記事が見つかりました。私たちが今見ても面白い内容になっていますので(内容が古いところは若干アレンジしています)、再掲します。
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営業部の斉藤です。
前回は西村先生からのファーストコンタクトの話をしました。
今回は見積依頼の話をします。
久しぶりに連絡が来た
前回電話を切ってからというもの、「いつになったら連絡がくるかな?」とどきどきしながら待っていましたが、一週間後メールで見積依頼が来ました。
内容は、
材料が4種類
① NBR(カーボンブラックなし)
② NBR(カーボンブラックあり)
③ EPDM(カーボンブラックなし)
④ EPDM(カーボンブラックあり)
これら4種類の材料それぞれに試験片を4種類
① 平角150㎜×150㎜×2㎜
② ダンベル1号
③ 短冊2㎜×1㎜×60㎜
④ 厚さ20㎜程度の方形もしくは円形
というものでした。
配合について
気になるゴム材料の配合内容については、「命」と言ってもいいくらいゴムメーカーの私たちには非常にデリケートな問題です。
私たちはゴム材料の性能を命とするゴム屋ですから、普段量産で使っているゴム材料の配合内容自体を教えるわけにはいきません。
ゴム屋に配合を聞くということは、鰻屋に秘伝のタレを聞くようなもので、「それはノウハウなのでご容赦ください」といわれるのがオチなのです。
前回のファーストコンタクトの時にある程度このあたりの下打ち合わせはしてありました。
西村先生はその点をよく理解されておられて、「当然公開できないでしょうし、独自の配合を聞くつもりもありません」と配慮していただいたことを覚えています。
西村先生からの提案は、ゴムの本に載っているような基本的な配合でいいというものでした。
それでもこういう依頼に不慣れな私たちは、配合をすべて指定してほしいというお願いをしました。なぜなら私たちが使っているポリマーの種類、カーボンの種類、使う薬品、などすべてがノウハウの固まりだからです。
結局西村先生の方よりご希望の配合をお伺いして、それに私たちから対応できるものは流用し、できないものは購入する、という形をとりました。
いい関係
この案件は大学の研究なので、論文として公開される、ということが前提でした。
先ほども書いたようにゴム業界には閉鎖的な慣習があり、「ゴムの配合内容はマル秘」というのが一般的です。
したがって、閉鎖的といわれるゴム業界においてどこまでオープンにしてよいものやら戸惑いました。
西村先生はそのあたりを十分考慮されていて、どうしたら私たちが対応しやすいか最初から気遣ってくださいました。この点はとてもありがたかったです。
ですから私たちもどういう方法が一番いいのか考えることができましたし、気軽にご提案もできました。
売り手である私の方から申し上げるのもなんですが、いい関係ができつつあるなと思いました。
問い合わせの対応をしていると日々新しいお客様とお話をしますが、いい仕事というのは内容ではなく、人と人との関係だとつくづく感じます。
調整は大変でした
このようにトントン拍子で進んだかの如く話していますが、実際の調整は一筋縄ではいかず大変でした。
薬品の種類、カーボンの種類、試験片の形状・・・など。
当時の記録を見ると電話とメールが入り乱れていました。
まあ私がこういうことに慣れていなかったのが一番の原因かもしれませんが・・・。
幸い、西村先生がこちらのやりやすいようにしてくださいとおっしゃってくださったので、すんなりと配合を決めることができました。
詳細を聞く
お恥ずかしい話ですが、最初の電話の時にこの試験片の目的を聞いていませんでした。
応対するのが精いっぱいでそんな余裕もなかったんだと思います。
御見積りを出すにあたって、「で、なんに使うんですか?」と聞いたくらいです。
今では使用環境や目的を尋ねるようにしています。
もちろん機密事項もあるでしょうからできる範囲でいいのですが、教えていただいた方が私たちからのご提案もできますし、仕事はやりやすくなります。
実はそこに私たちの特徴があります。
さて詳細はというと、この試験片を高圧の水素中に入れてどう変化するか見るのだそうです。
それがいったいどういうものか想像もつかなかったので、その時は「あー、そーですか」と返事するくらいしかできませんでした。
結果はゴムが見たこともないような変化を起こすのですが、それは別の回にお話しします。
とりあえずは予定通り、御見積りを提出しました。
3週間後に注文がきて試験片製作に取り掛かることになります。
そのあたりはまた次回に。
提案型営業
この一連のやり取りから学んだことは、いっしょに考え最適な方法を提案するというスタイル、つまり提案型営業です。
多くのお客様は「ゴムのことはよくわからない」とおっしゃいます。
西村先生も自分の研究室でゴムの設備一式を揃えてやってみようと検討されたということでした。ですがその道のりを考えると、「ゴムの研究」より「ゴムを作る研究」から始めないといけないので断念したそうです。
ゴムの専門家である私たちならではのご提案、お役立ちの方法があるのだなと感じた次第です。
ではまた。
(№3に続きます)